2008年7月19日 (土)

択一問題手引集 憲法13 基本的人権と公共の福祉

[6-6] 基本的人権の制約根拠とされる「公共の福祉」の学説・批判の組み合わせ

ア説:公共の福祉は、人権の外にあって、すべての人権を制約することのできる一般的な原理であり、憲法22条、29条が公共の福祉による制約があり得る旨特に明文で規定したのは、念のため繰り返したにすぎないのであって、特別の意味はない(一元的外在制約説

ア説からの主張:公共の福祉は、社会的公益あるいは公共の安寧秩序である

ア説への批判:個々の人権について、「法律の留保」を認めない憲法の基本思想に反する危険性が高い 

イ説:公共の福祉によって制約される人権は、経済的自由(憲法22条、29条)と社会権(憲法25条ないし28条)のみであって、その他の人権には内在的制約が存するにとどまる(内在・外在二元的制約説

イ説からの主張①:憲法第12条は国民の一定の倫理的な指針を示した規定であり、憲法12条はいはば国家の心構えを表明した訓示的な規定である

イ説①への批判:憲法第13条の解釈と結びつくことにより、プライバシー権など、憲法で個別的に保障されている人権以外のいわゆる「新しい人権」の制約を憲法上の制約として基礎づける根拠を失わせることになる

イ説からの主張②:公共の福祉は、権利・自由に内在する制約以外の、福祉国家特有の政策原理としての意味に限定して用いるべきである

イ説②への批判:いかなる限度までが内在的制約であり、どの程度になればそれを超える政策的考慮に基づく制約であるのか、その境界が明確でない

☞イ説②への批判:現代社会においては、自由権と社会権の区別が相対化しつつあるのに、それを峻別し、その性質上の差異を理由として、一律に内在的制約と外在的制約という人権制約の限界の程度においての区別を根拠付けるのは、妥当でない

ウ説:公共の福祉による制約は憲法の明文の規定の有無にかかわらず、すべての人権に論理必然的に内在している(一元的内在説

☞ウ説からの主張①:社会国家的公共の福祉は、自由国家的公共の福祉を実質的なものにするための原理であるから、二つの公共の福祉は別個のものではなく、一つの公共の福祉が権利・自由の性質の相違に応じて異なる調整的な作用をするものである

☞ウ説からの主張②:公共の福祉は、人権相互間に生じる矛盾や衝突を調節するための実質的公平の原理である

☞ウ説への批判:人権制約の具体的限界についての判断基準として、自由権に対しては、「必要最少限度の規制」、社会権に対しては、「必要な限度の規制」という抽象的な原則しか示されず、基準が明確でない

[8ー13] 公務員の労働基本権の制限に関しての語句挿入(全農林警職法事件判決文)

公務員の勤務条件の決定については、私企業における勤労者と異なるものがあることを見逃すことはできない。

すなわち、公務員については憲法自体がその第73条第4号で「法律の定める基準に従い、官吏に関する事務を掌理すること」は内閣の事務であると定め、

その給与は法律により定められる給与準則に基づいてなされることを要し、これに基づかずにはいかなる金銭又は有価物も支給することはできないとされており、

このように公務員の給与をはじめ、その他の勤務条件は私企業の場合のように労使間の自由な交渉に基づく合意によって定められるものではなく、原則として国民の代表者により構成される国会の制定した法律及び予算によって定められることになっているのである。

その場合に、使用者としての政府にいかなる範囲の決定権を委任するかは、まさに国会自らが立法をもって定めるべき労働政策の問題であ。

したがって、これら公務員の勤務条件の決定に関し、政府が国会から適法な委任を受けていない事項について、公務員が政府に対しストを行うことは、適切なものとは言い難いのであり、

もしこのような制度上の制約にもかかわらず、公務員によるストが行われるのであれば、使用者としての政府によっては解決できない立法問題に逢着せさるをえないこととなるのである

[15-6] 全農林警職法事件判決においてなされた公務員の争議行為の一律禁止を合憲とする判断にたいする批判としてふさわしくないもの

ア 憲法第15条第2項の、公務員が国民全体の奉仕者である旨の規定は、主として、公務員が特定の政党、階級など国民の一部の利益に奉仕すべきものではないとする点に意義を有するものであって、使用者である国民全体、ないしは国民全体を代表し、又はそのために行動する政府諸機関に対する絶対的服従義務を公務員に課したものという解釈をすることはできない・・・批判としてふさわしい

イ 近代における福祉国家の発展に伴い、国や地方公共団体の行う事務が著しく拡大し、その大部分が一般手福祉行政や公共的性格を有する経済活動となった根治ににおいては、公務の内容、性質もきわめて多岐多様であるとともに、その運営の阻害が公共の利益に及ぼす影響もまた千差万別であって、そのうちには、公益的性質を有する私企業の業務の停廃による影響とその内容、性質にいおてほとんど区別がなく、むしろ、後者の方がその程度いかんによっては、国民生活に対してより重大な支障をもたらすおそれのある場合すら存する・・・批判としてふさわしい

ウ 一般の私企業においては、その提供する製品又は役務に対する需給につき、市場からの圧力を受けざるを得ない関係上、争議行為に対しても、いわゆる市場の抑制力が働くことを必然とするのに反し、公務員の場合には、そのような市場の機能が作用する余地がない・・・批判としてふさわしくない

エ 公務員については、憲法自体がその㈹3条第4号において「法律の定める基準に従い、官吏に関する事務を掌理すること」は内閣の事務であると定め、その給与は法律により定められる給与準則に基づいてなされることを要し、これに基づかずにはいかなる金銭又は有価物も支給することはできないとされており、このように公務員の給与を始め、その他の勤務条件は、原則として、国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によって定められることとなっている・・・批判としてふさわしくない

オ 人事院勧告は、政府又は国会に対して何ら応諾義務を課するものではないから、政府又は国会に同勧告に応じる措置を採らせるためには、法的強制以外の政治的又は社会的活動を必要とし、このような活動は、究極的には世論の支持、協力を要するものである・・・批判としてふさわしい

|

2008年7月18日 (金)

択一問題手引集 憲法12 外国人の人権

[8-2] 明らかに憲法に違反するかの正誤問題

A その者の意思によって外国籍を離脱することができる場合において、その離脱を帰化の条件とすること・・・違反するとは言えない日本国籍の取得の許否は法務大臣の自由裁量

B 現行の裁判官弾劾法は、裁判官について弾劾による罷免の事由があると思料するときは、何人も訴追委員会に対して罷免の訴追をすべきことを求めることができると定めているが、これを日本国民のみに限定すること・・・違反するとは言えない

C 一定期間日本に居住する外国人に対して永住の意思にかかわらず、国民健康保険等への加入を義務付け、保険料を徴収すること・・・違反するとは言えない

D 日本国内の外国人の子女は、学校教育法に定める小中学校において義務教育を受けなければならないとすること・・・違反する

E 外国人の平穏に請願する権利の規定が外国人登録制度に関する事項を除外すること・・・違反する

[11-11] 外国人の人権に関する正誤問題

A 外国人には、国政に関する参政権は認められないと考えても、地方公共団体に関する参政権については、これを外国人に与えることも憲法上許される・・・

B 外国人には、国政に関する参政権は認められない以上、国政に関する政治的活動の自由、いかなるものも憲法上保障されていない・・・×

C 公務就任権については、参政権的性格があると考えると、選挙権と同様に、外国人が国家意思の形成に参画できない以上、国家意思の形成への参画に携わる公務員への就任権については、憲法上、当然には外国人に保障されていない・・・

D 適法に在留資格を得た外国人が、憲法22条2項により出国の自由を保障されていると考えても、当然に再入国の自由も憲法上保障されているとは限らない・・・

E 社会権は、各人の所属することは立法政策上望ましいが、財政上の理由から自国民を外国人より優先的に取り扱うことも憲法上許される・・・

[16-16] 外国人の参政権に関する会話挿入

学生A 最高裁判所は、定住外国人の地方参政権が憲法上保障されているかどうかが問題になった事件の判決(H7.2.28)において、

第1点として、憲法15条第1項の公務員選定罷免権の規定は、権利の性質上、日本国民のみを対象とする、

第2点として、憲法第93条第2項にいう住民とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味する

第3点として、憲法第8章の地方自治に関する規定の趣旨から、永住者等に地方選挙権を付与する措置を講じることは憲法上禁止されているものではない、という判断を示しました。

学生B では、最高裁判所の見解では、地方公共団体の長や地方議会議員の選挙権を永住者等に付与する措置を講じないときは、違憲になるのですか。

学生A もっぱら国の立法政策にかかわる事柄なので、違憲になるわけではないといえます。

学生B 第1点で、日本国民のみを対象にすると考えるのはなぜですか

学生A 最高裁判所の見解によれば、憲法前文及び第1条の規定に照らせば、国民主権原理における「国民」とは、日本国籍を有する者を意味することは明らかであるからです。

学生B 第3点について、第2点で地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するという見解を導いたことと矛盾しませんか

学生A 第2点の地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するという見解については、

地方公共団体が国の統治機構の不可欠の要素を成すことを重視し、憲法第15条第1項の趣旨が、憲法第8章の住民の解釈にも及ぶという前提で考える場合には、第3点の結論との理論的関係が問題となり、矛盾するという指摘もありうると考えます。

[18-2] 外国人の出入国の自由に関する最高裁判例の趣旨に照らして正誤するもの

ア 憲法22条は外国人が我が国に入国することについては何ら規定しておらず、国際慣習上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条件がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができるとされている・・・

イ 外国人の在留期間更新の許否については、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければ到底適切な結果を期待することができず、その判断における法務大臣の裁量権は広範なものとされるべきであり、上陸拒否事由又は退去強制事由に準ずる事由がない限り更新申請を不許可にすることは許されないと解すべきものではない・・・

ウ 再入国とは、単なる入国、出国とは異なり、日本国に在留資格のある外国人がその在留期間の満了の日以前に再び入国する意図を持って出国する場合であり、在留期間その他による制限はあるにしても、その実質は、日本国における在留地を生活の根拠とする一時的な海外旅行であり、憲法22条によって保障される・・・×(森川キャサリーン事件判決)

エ 国際人権規約は、自国を含むすべての国から離れる自由と、自国に戻る権利とを保障しているが、「自国に戻る」にいう自国とは、国籍国に限定されず、定住国をも含むものと解される・・・×

オ 憲法の定める基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としているものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶというべきところ、憲法第22条第2項は海外移住の自由を定めるが、この自由はその性質上外国人に限って保障しないという理由はない・・・

|

2008年7月17日 (木)

択一問題手引集 刑法17 緊急避難

[60-30] 緊急避難と正当防衛に関する正誤問題

1 緊急避難の「やむを得ずにした行為」とは、正当防衛のそれとは異なり、避難行為がその危難をさけるための唯一の手段であり他にとるべき方法がなかったことを意味するが、これは前者が「正対正」の関係であり、後者が「正対不正」の関係であるからである・・・

2 「正対正」の関係である緊急避難の場合には、生じた結果につき損害賠償義務を負うことがあるのに対し、「正対不正」の関係である正当防衛の場合には、侵害者に対し損害賠償義務を負うことはない・・・

3 緊急避難は「正対正」の関係であるが、「正対不正」の関係である正当防衛と同じく、急迫不正の侵害から身を守る場合にも許される・・・

4 緊急避難は「正対正」の関係であり、正当防衛は「正対不正」の関係であるから、緊急避難の危難の「現在」性は正当防衛の侵害の「急迫」性より厳格に解さなければならない・・・×

5 緊急避難の「これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り」との要件は、正当防衛にないものであるが、これは「正対不正」の関係である正当防衛と異なり緊急避難が「正対正」の関係であるからである・・・

[7-51] 緊急避難の法的性質につき、A、Bいづれの立場の発言か

A「違法だが、適法行為の期待可能性を欠き、責任が阻却される」(責任阻却事由説)

B「違法性が阻却される」(違法性阻却事由説)

①制限従属性説を前提とすると、緊急避難行為をした者との共犯の成立は、僕の見解では認められるが、君の見解では認められない・・・Aの発言

②緊急避難行為に対しては、僕の見解では正当防衛も緊急避難も可能だが、君の見解では正当防衛ができない・・・Aの発言

③生命対生命のように法益が同価値の場合、君の見解では説明が困難だ・・・Aの発言

④他人のための緊急避難も認められているから、君の見解は妥当でない・・・Bの発言

⑤法益の権衡が緊急避難の要件とされているから、君の見解は妥当でない・・・Bの発言

[13-44] 緊急避難に関する語句挿入問題

正当防衛の法的性質は違法性阻却事由であることに争いはないが、緊急避難の法的性質については争いがあり、

主に違法性阻却事由説責任阻却事由説がある。

海上で遭難したAとBが一人しか支えきれない板きれに泳ぎ着いた際、以前からBへの殺意を有するXが、Aに対してBを板きれから突き放すように示唆したことから、Aが同行為に及んでBが水死した場合、

Xの罪責につき、共犯の従属性について制限従属説に立ては、

責任阻却事由説では理論的には殺人罪の教唆犯が成立し、

違法性阻却事由説では教唆犯は成立せず、場合により が別途問題となりうる。

また、攻撃者がナイフを持って襲ってきは際、その攻撃から逃れようとして他人の家に塀を壊して逃げ込んだ場合は責任阻却事由説に立てば、緊急避難は違法となり、

これに対しては、緊急避難だけではなく正当防衛も可能になる。

そして、緊急避難では、条文上法益権衡が必要とされているが、これは違法性阻却事由説では、条文上法益権衡が必要とされているが、これは違法性阻却事由説では当然の要件であり、

責任阻却事由説では政策的な配慮に基づく要件であると考えうる。

|

2008年7月15日 (火)

択一問題手引集 刑法16 正当防衛

[59-45] 最判文(S52年7月21日):正当防衛に関する語句選択

刑法36条が正当防衛について侵害の急迫性を要件としているのは、予期された侵害を避けるべき義務を課する趣旨ではないから、

当然又はほとんど確実に侵害が予期されたとしても、そのことからただちに侵害の急迫性が失われるわけではないと解する。

しかし、同条が侵害の急迫性を要件としている趣旨から考えて、単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、

その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当である。

そうして、原判決によると、被告人甲は、相手の攻撃を当然に予想しながら、単なる防衛の意図ではなく、積極的攻撃、闘争、加害の意図をもって臨んだというのであるから、これを前提とする限り、侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきであって・・・

[3-53] 刑法36条の正当防衛に関する正誤問題

A 正当防衛は侵害に対する反撃行為が何らかの犯罪構成要件に該当する場合以外には、いかなるときにも認める余地はない・・・

B 正当防衛は侵害行為が何らかの犯罪構成要件に該当する場合以外には、いかなるときにも認める余地はない・・・×

C 正当防衛は過去または将来の侵害に対しては認められないから法益が現に侵害されている場合しか認める余地はない・・・×

D 正当防衛は侵害という故意行為に対して認められるものであるから、過失行為に関しては認める余地はない・・・×

E 正当防衛は反撃行為が急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を有する必要があるから、反撃行為によって侵害された法益が侵害されようとした法益より大きい場合には成立する余地はない・・・×

[7-54/55] 偶然防衛に関する並び替えと語句選択。

この問題は、主要的違法要素の存否・範囲の問題と関連しており、従前は、主観主義客観主義の対立の側面において論じられてきたが、

最近では、結果無価値論結果無価値論行為無価値論を併用する立場との対立の側面において論じられるようになった。

まず、防衛の意志必要説は、違法性の判断においては、単に結果無価値だけでなく行為無価値をも考慮しなければならないとする考え方に立脚する。

この説では、偶然防衛は、行為無価値の側面の問題とされるから、違法性が阻却されない

もっとも、この説の中にも、防衛の意思の内容については、急迫不正の侵害に対応する認識のみで足りるのか、防衛の意図・動機が必要なのかについては異なる意見がある。

突然殴りかかられたことに憤激して相手を突き飛ばした事案において、防衛の意図・動機を必要とした場合には、防衛の意思が認められないが、これを不要とした場合には逆の結論になる。

この説に対しては、⑤主観的違法要素は客観的要素を超過している場合に認められるものであるが、

防衛の意思の場合は客観的要素を超過していないとか、結果犯における違法性の判断においては、まず結果無価値を問題とし、それが肯定された場合に違法性を減少させる方向で行為無価値を考慮すべきであって、

偶然防衛においては結果無価値が肯定できない以上、行為無価値のみで違法性を肯定することはできないとかの批判がある。

これに対して、④防衛の意思不要説は、違法性の判断においては、結果無価値だけを考慮すればよいとする考え方に立脚する。

この説では、偶然防衛は、結果無価値がないので、違法性は阻却される。

この説に対しては、過剰防衛について、これを責任減少事由と見るのであれば防衛の意思が必要であるとの帰結にならざるを得ないであろうが、これは正当防衛に防衛の意思が不要であるとすることと均衡を欠くとの批判がなされている。

[12-55] 正当防衛の要件に関する最高裁判例の立場を説明した記述の語句選択

最高裁は、ある判決において、「防衛に名を借りて侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為は、防衛の意思を欠く結果、正当防衛のための行為と認めることはできないが、

防衛の意思攻撃の意思とが併存している場合の行為は、防衛の意思を欠くものではないので、これを正当防衛のための行為と評価することはできる」旨判示する一方、

他の決定では、「刑法第36条における侵害の急迫性は、当然又はほとんど確実に侵害予期されただけでは失われるものではないが、

その機会を利用し相手に対して積極的加害意思(積極的に加害行為をする意思)で侵害に臨んだときは失われる」旨判示している。

この二つの判例の趣旨を整合的に理解するならば、最高裁は、次のような基本的立場を採っているとも考えられよう。

まず、防衛の意思の要件の存否は、不正の侵害に対して現に反撃行為に及ぶ時点において問題になる。

これに対し、侵害の急迫性は防衛行為を正当なものとする前提としての状況であるから、その要件の存否は、現に反撃行為に及ぶ以前の段階において問題になる。

すなわち、それぞれその要件を検討すべき時点を異にしている。

そうであるとすれば、反撃行為に及ぶ以前の段階で、侵害予期しながら積極的加害意思(積極的に加害行為をする意思)で侵害に臨んだという事情のある場合には、防衛の意思を問題にする以前に、まず侵害の急迫性の存否が問題にされるべきであり、

しかも、このような事態は正当防衛の緊急行為としての本質にそぐわないから、侵害の急迫性の要件を欠くと解される。

他方、上記のような事情のない場合には、積極的加害意思(積極的に加害行為をする意思)は専ら防衛の意思の要件との関係において論じられるべきであり、

この場合、たとえ攻撃の意思が併存していても同要件が否定されるものではなく、攻撃の意思防衛の意思を排除し尽くし、専ら積極的加害意思(積極的に加害行為をする意思)により行為を行ったとみられるような場合に限って否定されるものと解される。

|

2008年7月10日 (木)

択一問題手引集 刑法15 正当行為

[11-42] 被害者の同意・承諾に関して、丙に傷害罪が成立する場合の組み合せ

事例:暴力団組長甲は、組員乙に不義理があったとして、指を詰めるように命じ、乙は、やむなく包丁で左手小指を切り落とそうとしたが、痛さのあまり中止し、くるしんでいた。甲がその場を立ち去り、入れ違いにやってきた組員丙は、乙が自発的に指を詰めようとしたが果たせず、その手助けを求めていると、乙の意思を誤解し、直ちに包丁で乙の左手小指を切断した

Ⅱ説 被害者の同意に基づく傷害は、生命にかかわる重大な場合を除き、正当化される プラス ウ説 違法性阻却事由に関する錯誤であり、法律の錯誤として相当の理由があれば責任が阻却される プラス 丙は、不義理をしたものの指を詰めるのは絶対に嫌だと乙から聞いていた。行為時にも、乙は傷口を押えてうめくのみで、とくに言葉を発しなかった。

Ⅲ説 被害者の同意に基づく傷害は、社会的に相当な場合にのみ正当化される プラス イ説 違法性阻却事由に関する錯誤であり、事実の錯誤として故意が阻却される プラス 丙は、不義理をしたものの指を詰めるのは絶対に嫌だと乙から聞いていた。行為時にも、乙は傷口を押えてうめくのみで、とくに言葉を発しなかった。

Ⅲ説 被害者の同意に基づく傷害は、社会的に相当な場合にのみ正当化される プラス  ウ説 違法性阻却事由に関する錯誤であり、法律の錯誤として相当の理由があれば責任が阻却される プラス 丙は、不義理をした以上自ら指を詰めるしかないだろうと乙から聞いていた。行為時にも、乙は丙に小指を示して「何とかしてくれ」と言った

[15-48] 「甲は実父の乙を手拳で殴打して打撲傷を負わせた。その際、乙は、内心では、甲に殴られてけがをするのなら構わないと思っていたが、それを言動に一切示さず、甲に全く気付かなかった」という事例についての語句挿入問題。

違法性阻却の根拠となり得る被害者の承諾について、

エ承諾は外部に表示される必要はないとする見解と ウ承諾が外部に表示される必要があるとする見解がある。

そして、

エ承諾は外部に表示される必要はないとする見解を採って、行為者が承諾の存在を認識する必要はないとする立場や、

ウ承諾が外部に表示される必要があるとする見解を採って、違法性阻却の主観的要件として、行為者が承諾の存在を認識する必要があるとする立場がある。

被害者の承諾がある場合に違法性が阻却される理由を

ア保護すべき法益が存在しないことと解すると、法益の放棄がある以上、当然 保護すべき法益が存在しないと言え、

エ承諾は外部に表示される必要はないとして、行為者が承諾の存在を認識する必要はないとする考え方が導かれる。

この考え方によると、甲の行為について違法性は阻却されるという結論となる。

また、被害者の承諾がある場合に、違法性が阻却される理由を

イ行為の社会的相当性が認められることと解すると、承諾が外部に表示される必要があるとして、オ行為者が承諾の存在を認識する必要がある

とする考え方が導かれる。

この考え方によると、甲の行為について違法性は、阻却されないという結論となる。

|

2008年7月 8日 (火)

択一問題手引集 憲法11 法人の人権

[7-9] 法人の人権に関する正誤問題

A 法人の人権享有主体性を肯定する見解の中には、「法人が社会において自然人と同じく活動する実態であり、特に現代社会における重要な構成要素せあること」を主たる理由とするものがある・・・

B 法人たる報道機関は、それが民間の新聞社や放送会社であっても、また、NHKのような放送法に基づいて設立された特殊法人であっても、報道の自由を享受する・・・

C 法人の人格共有主体性を否定する見解であっても、法人格のない団体には人権享有主体性を認めない・・・×

D 法人の人権享有主体性を否定する見解は、人権が自然権思想に由来し、人間の尊厳という観念に基づいていることを重視し、法人は元来、個人が人権を享受する上で必要な法的技術として法律上創設されたものにすぎないという考え方を論拠にしている・・・

E 法人の人権享有主体性を肯定する見解によっても、法人は、思想・良心の自由や新疆の自由などの精神的自由権は享受し得ない・・・×宗教法人は信教の自由を享受する

[13-2] 会社とユニオンショップ協定を締結し、X政党を支持している労働組合が、Y政党の候補者として立候補しようとした組合員を憲法28条で保障されている団結権を乱したとして除名した。この除名処分が無効であると主張するためんい有利に援用できる肢を選択

A 会社による政治資金の寄付は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとする最高裁昭和45年6月24日の判決(八幡製鉄政治献金事件)・・・×

B 憲法第28条の労働基本権の保障は、労働条件を使用者と労働組合の団体交渉によって決定させようとする趣旨に出たものであり、団結権も労使が労働条件を対等に団体交渉を通じて決定するのを助成するために保障されていると考える学説・・・

C 憲法28条の労働基本権の保障は、団結権を含めて、労働者の経済的地位の向上を目的とするための規定であり、そのための労働組合の活動は政治活動も含めて国法上是認されると考える学説・・・×

D 税理士会が強制加入の団体であり、その会員である税理士には実質的な脱退の自由が保障されていないことからすると、税理士会の目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、会員に要請される協力義務にも、おのずと限界があるとする最高裁平成8年3月19日の当該判示部分・・・

E 被選挙権は、選挙によって議員その他の公務員となり得る資格であって、権利ではないとする学説・・・×

参照判例:南九州税理士会事件(最判H8.3.19)

強制加入団体である税理士会が、会の決議に基づいて、税理士法を業界に有利な方向に改正するための工作資金として会員から特別会費を徴収し、それを特定の政治団体に寄付した行為が、法人の「目的の範囲内」(民法34条)の行為か否かが争われた事件。

「政党など政治資金規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏をなすものとして、各会員が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断に基づいて自主的に決定すべき事柄である」から、

それを税理士会が「多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできない」とし、

本件寄付は、「たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても」

税理士法49条2項所定の税理士会の目的の範囲外の行為であり、無効であると判示

[15-5] 法人の人権享有主体性に関する最高裁の判決に照らして無効とされる肢選択

A 弁護士会が、特定の法律案について、「同法律案は、構成要件の明確性を欠き、国民の言論、表現の自由を侵害し、知る権利を始めとする国民の基本的人権を侵害するものである」との理由で、同法律案に反対する旨の総会決議を行った場合・・・有効最判H4、12、21

B 税理士会が、税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するために、政党など政治資金規正法上の政治団体に金員を寄付するために特別会費を徴収する旨の総会決議を行った場合・・・無効最判H8、3、19

C 労働組合が、地方議会議員の選挙に当たり、いわゆる統一候補を決定し、組合を挙げて選挙運動をしている場合において、統一法補の選にもれた組合員が、組合の方針にはんして立候補しようとするときに、これを断念するよう勧告又は説得してもなお翻意しないため、同組合員を除名処分に付した場合・・・無効三井美唄労組事件 最判S43.12.4

D 株式会社が、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになすと認められる特定政党に対する政治資金規正法上の寄付を行った場合・・・有効八幡製鉄政治献金事件 最判S45.6.24

E 労働組合が、その実施する政治闘争に必要となる費用を臨時組合費として徴収する旨の組合決議を行った場合・・・無効国労広島地本事件 最判S50.11.28

|

2008年7月 4日 (金)

択一問題 民法12 代理

[2-27] 本人・代理人・複代理人に関する語句挿入

本人代理人間で委任契約の締結され、代理人複代理人間で複委任契約が締結されたことにより、民法107条2項の規定に基づいて本人複代理人間に権利義務が生じた場合であっても、

この規定は、複代理人の代理行為も代理人の代理行為と同一の効果を生じるところから、本人複代理人間にも直接の権利義務関係を生じさせることが便宜であるとの趣旨に出たものであるにすぎず、

この規定のゆえに委任契約及び複代理人契約上の権利義務に消長を来すべき理由はない。

したがって、複代理人が委任事務を処理するに当たり金銭等を受領したときは、複代理人は、特別の事情がない限り、本人に対してこれを引き渡す義務を負うほか、代理人に対してもこれを引き渡す義務を負い、

もし複代理人代理人にこれを引き渡したときは、代理人に対する受領物引き渡し義務は消滅し、それとともに、本人に対する受領物引き渡す義務も消滅することになる。

[10-33] 代理権消滅後の表見代理に関する会話

教授:民法112条は、通説は、表見代理を無権代理の一種である説き、表見代理と狭義の無権代理とを併せて広義の無権代理と呼んでいますが、この理解を前提にして考えてみましょう。

学生A:民法112条は、「代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない」と規定していますが、ここでいう「第三者」とは

代理行為の相手方

をいいます。

学生B:この規定の「対抗することができない」という文言を、善意無過失の第三者に対しては代理権は、善意無過失の第三者との関係では、

有権代理に当たる

と考えることになります。

学生C:しかし、この規定は、代理権の消滅を第三者に対して主張することができることを前提として、第三者が善意無過失の場合に第三者を特に保護した規定であると解する考え方もあります。この考え方によれば、代理権消滅後の代理行為は、善意無過失の第三者との関係では、

無権代理に当たる

と考えることになります。

教授:Bさんの解釈によると、かって代理権を有していた者が代理権消滅後に代理権の範囲を超えて代理行為をした場合、すなわち、民法110条と代112条が重畳適用され得ると考えられる事案は、

民法112条が適用されて基本代理権が消滅しなかった結果、民法第110条が適用されるだけて、新たな型の表見代理ではないと解することになるでしょう

学生D:Bさんの解釈でも、Cさんの解釈でも、民法112条の「善意」とは、

代理権消滅原因があったことを知らなかったこと

と解することになります。

[3-39] 甲所有の土地を乙が丙に売り渡す契約を締結した場合についての次の記述のうち、契約の結果が甲に帰属する場合の肢選択

ア 乙が甲になりすまし、丙が乙を甲と過失なく誤信した場合・・・帰属しない

イ 甲から土地売却の代理権を与えられた乙が甲の代理人であることを告げなかったが、乙が代理人であることを丙が知ることができた場合・・・帰属する

ウ 甲から土地売却の代理権を与えられた乙が甲になりすまし、丙が乙を甲と誤信した場合・・・帰属する(110条類推適用)

エ 甲から土地売却の代理権を与えられた乙が自己の利益を図るつもりであるのに甲の代理人であると告げ、丙が乙の意図を過失なく知らなかった場合・・・帰属する

オ 甲から土地に抵当権を設定する代理権を与えられた乙が甲になりすまし、丙が乙を甲と過失なく誤信した場合・・・帰属する(110条類推適用)

|

2008年6月27日 (金)

択一問題手引集 刑法14 過失

[60-24] 過失の構成要件について語句選択

過失は、過失犯故意犯を構成要件上区別する構成要件要素であるから、過失犯の構成要件的行為は、過失のある行為である。

過失のある行為であるというためには、不注意により、構成要件に該当する犯罪事実を認識又は容認しなかったことが必要であって、この注意義務違反こそが過失の違法性を根拠づけるのである。

したがって、過失犯の構成要件的行為は注意義務違反行為にほかならない。

注意義務がないか、又は、注意義務を守ったことによって違法性がないときには、当初から、違法行為としての定型性がないのであって、構成要件に該当するが、違法性を阻却すると考えるべきではない。

過失犯の構成要件該当性は、注意義務違反の行為によって、結果を発生させる場合に認められる。

注意義務違反がなくて結果が生じても、それは、過失犯の構成要件的行為ではない偶然の事故に過ぎないし、また、注意義務違反があっても、これと因果関係がなく結果が発生した場合も同じである。

このように、過失犯の構成要件を考えていくと、これは、当該過失行為の違法性を推定させる働きをもつものであるから、注意義務違反結果の発生によって構成要件該当性が肯定させた行為は、故意犯の場合と同じように、違法性阻却事由がないかぎり、違法性が肯定される。

[17-42] 過失犯の構造についての語句選択

過失犯における過失に関しては、その本質を結果を予見しない不注意な心理状態ととらえ、過失とは、結果予見義務に反することと解する見解α(旧過失論)と、

過失の本質を結果回避に適した行動に出ないことととらえ、過失とは、結果回避義務に反することと解する見解β(新過失論)がある。

見解α(旧過失論)は、結果予見義務を課す前提として結果予見可能性があることが必要であるとするが、

見解β(新過失論)も、過失犯の成立に結果予見可能性を不要とするわけではなく、これがないときは、結果回避義務を課す前提を欠くとして過失犯の成立を否定する。

なお、結果予見可能性については、

構成要件的結果及びそれに至る因果経過の基本的部分について必要であるとする見解と、

構成要件的結果を発生させるかもしれないという不安感があれば肯定できるとする見解

などがあるが、後者に対しては、責任主義に反するなどの批判がなされている。

見解β(新過失論)は結果回避義務を課す前提として、結果回避可能性があることが必要であるとするが、見解α(旧過失論)も、過失犯の成立に結果回避可能性を不要とするわけではなく、

例えば、事例Ⅰ(略)における甲のように結果回避可能性を欠くときは、結果回避義務を課す前提を欠くなどとして過失犯の成立を否定する。

過失犯の構造に関する見解

旧過失論: 過失は故意と並ぶ責任要素と解し、注意義務の内容は予見可能性を前提とした結果予見義務と解する。

新過失論: 注意義務の内容を結果予見義務のみならず結果回避可能性を前提にした結果回避義務と理解し、一般人を基準とした客観的注意義務として過失と解する。

[57-12] 過失犯に関する正誤問題

1 注意義務に違反して人を負傷させた場合は、相手方に重大な過失があったとしても、過失の責任を免れうるものではない・・・

2 相手方が法令に従って適切な行動をとることを期待しえない者であることを認識していた場合には、信頼の原則を適用できない・・・

3 わずかの注意を払えば重大な結果の発生を容易に予見し、かつ、これを防止しえたとみられる場合に、行為者が怠慢でいてその予見を欠いたことが明らかであるときは、常に重大な過失があったということができる・・・

4 認識のある過失は、結果の発生を認識した場合であるから、その認識を欠く場合である認識のない過失よりも、避難可能性の程度は常に重い・・・×

5 一般には予見しえないような異常な事態に対しては、それについての予見能力を有する行為者がこれを予見しなかった場合でも、注意義務違反を認めることはできない・・・注意義務の基準はあくまでも一般人

[3-47/48]  自己の運転する自動車を衝突させ、自車後部荷台に乗車していた人を死亡するに至らしめた場合における業務上過失致死罪の成否に関する文章の並び替えと語句選択

 自動車の運転者は、自車の同乗者、さらには歩行者、他の車両の運転者及びその同乗者等に対する死傷の結果を惹起せしめる危険のあることを当然認識しうべかりしところである

のであって、

 同罪の注意義務を怠って運転者が自動車を運転させて自車を制御することができなくなった過失により、これを暴走させて衝突事故を発生させた

場合、

 同罪の注意義務は、道路を走行中の車両が運転者の制御に服さなくなることによって生じる人の生命身体を侵害する高度の危険防止するために車両の運転者に課せられている

から、

 自動車の運転者において、自車後部荷台に人が乗車している事実を認識していなかった

としても、 

 運転者が自己の運転する自動車の衝突により人に死亡結果を生ぜしめた以上、過失致死の罪責は免れない。

|

2008年6月20日 (金)

択一問題手引集 民法11 代理

[13-25] Aは、Bに対し、著名な画家の作による絵画1点を価格1億円で購入することを依頼し、その代理権を与えた。

Bは、Aの代理人としてAのために購入する意思を有しながら、美術商Cに対し、「この絵画1点を代金1億円で購入したい」とだけ述べた。

Bの言動から買主はBと思われる状況にあり、Cも、Bが買主と思い、この絵画について売買契約を締結した。

その後、Cは、BがAのために売買契約を締結する意思を有していたことを知った。この事例における正誤問題

1 Aは、Cに対し、売買契約の履行請求をすることができる。これに対し、Cは、BがAのために売買契約を締結する意思を有していたとして錯誤による無効を主張することができる・・・×BC間でのみ契約は有効、Aの請求も錯誤無効も認められない

2 Bは、Cに対し、売買契約の履行請求をすることができる。これに対し、Cは、Bの履行請求に応じてもよいし、BがAのために売買契約を締結する意思を有していたと主張してBの履行請求を拒絶してもよい・・・×

3 Cは、その選択に従い、A又はBに対し、売買契約の履行請求をすることができる・・・×CはAに履行請求をすることはできない

4 Cは、AがCに対しBがAのために売買契約を締結する意思を有していた旨の通知をした後は、Aに対してのみ売買契約の履行請求をすることができる・・・×事後的に通知しても影響しない

5 Cは、Bに対し、売買契約の履行請求をすることができる。これに対し、Bは、自己に重大な過失がない場合でも、Aのために売買契約を締結する意思を有してたとして錯誤による無効を主張することはできない・・・

[14-21] Aの代理人であるBは、Cとの間で、C所有の甲土地を買い受ける旨の売買契約を締結し、Cから同土地の引渡しを受けるとともに、同土地についてA名義の所有権移転登記がされた場合の正誤問題。

ア Bが契約締結に際しAのためにすることを示さなかった場合、たとえBがAのためにする意思を有していたとしても、BC間に売買契約が成立することになり、Bは、契約の効果帰属主体に関する錯誤があるとして契約の無効を主張することはできない・・・

しかし、Cにおいて、BがAのためにすることを知り又は知りうべきであったときは、BC間の売買契約のほかに、AC間にも売買契約が成立し、Cは、Aに対しても契約に基づく債務の履行を請求することができる・・・×BC間には売買契約は成立しない

イ Bが契約締結に際しAのためにすることを示した場合、Bの意志表示に要素の錯誤があったときは、Aは契約の無効を主張することができるが、錯誤は表意者保護のための制度であるから、C及び第3者は、契約の無効を主張することができない・・・

しかし、Aに契約の無効を主張する意思がない場合であっても、Aが錯誤があったことを認めており、Aの債権者であるDがその債権を保全するために必要があるときは、Dは、AC間の売買契約の無効を主張することができる・・・

ウ Bが契約締結に際しAのためにすることを示した場合、BがCをだましてAとの契約を締結させたときは、Aが詐欺の事実を知ったときに限り、Cは、その意思表示を取り消すことができる・・・×

しかし、CがAC間の売買契約を詐欺を理由に取り消した後にAかた甲土地を譲り受けたDは、所有権移転登記を経由していれば、Cに対して、甲土地の所有権を主張することができる・・・

エ Bが契約締結に際しAのためにすることを示した場合、Cの意志表示が心裡留保によるものであり、BがCの真意を知り、又はこれを知ることができたときは、契約は無効となる・・・

したがって、AC間の売買契約後に事情を知りながらAから甲土地を譲り受けたDは、所有権移転登記を経由していたとしても、Cに対し、甲土地の所有権を主張できない・・・

オ Bが契約締結に際しAのためにすることを示した場合、Cの意志表示がEの強迫によるものであるときは、Bが強迫の事実を知らなくとも、Cは、その意志表示を取り消すことができる・・・

したがって、CがAC間の売買契約を強迫を理由に取り消した後にAから甲土地を譲り受けたDは、所有権移転登記を経由していたとしても、Cに対し、甲土地の所有権を主張することはできない・・・×CD間はAを起点とした対抗関係になる

|

2008年6月15日 (日)

択一問題手引集 民法10 代理権

[63-39] 102条代理人能力の立法趣旨に関する文章組み合わせ

民法102条は「代理人は、行為能力者であることを要しない」と規定しているが、

これは(代理人の能力の制限を理由としてその代理行為を取り消すことができない)ことを意味すると一般に理解されている。

なぜなら、(行為能力制度は制限能力者自身を保護する制度である)から、

代理人の能力の制限を理由としてその代理行為を取り消すことができる)ものとしても、

代理行為の効果は本人に帰属し、代理人には帰属しない)ことを考えると、

制限能力者である代理人を保護することにならない)からである。

[3-39] 代理権の帰属に関する正誤問題

甲所有の土地を乙が丙に売り渡す契約を締結した場合について、契約の効果が甲に帰属するかいなか。

ア 乙が甲になりすまし、丙が乙を甲と過失なく誤信した場合・・・帰属しない

イ 甲から土地売却の代理権を与えられた乙が甲の代理人であることを告げなかったが、乙が代理人であることを丙がしることができた場合・・・帰属する(100条ただし書き)

ウ 甲から土地売却の代理権を与えられた乙が甲になりすまし、丙が乙を甲と誤信した場合・・・帰属する(110条類推)

エ 甲から土地売却の代理権を与えられた乙が自己の利益を図るつもりであるのに甲の代理人であると告げ、丙が乙の意図を過失なく知らなかった場合・・・帰属する

オ 甲から土地に抵当権を設定する代理権を与えられた乙が甲になりすまし、丙が乙を甲と過失なく誤信した場合・・・帰属する(110条類推)

[57-56] 代理の効果に関する問題

甲は、乙に対し、ある物品を甲のために購入することを依頼し、そのための代理権を与えたところ、乙は、丙の経営する商店でその物品を購入したが、その際、甲の代理人である旨を丙に告げなかった。この売買契約に関する記述の正誤。

1 乙は甲のために物品を購入する意思でその契約を締結したときは、その契約の効果は甲丙間に生ずるが、乙が自己のために物品を購入する意思でその契約を締結したときは、その契約の効果は乙丙間に生ずる・・・×甲のためにする意志表示が丙になされていない

2 乙が甲のために物品を購入する意思でその契約を締結したときは、その契約の効果は乙丙間に生ずるが、乙が甲のために物品を購入する意思でその契約を締結した場合において、丙がそのことを知り、又は知ることができたときは、その契約の効果は甲丙間に生ずる・・・

3 甲は乙に代理権を与えた事実を丙が知り、又は知ることができたときは、その契約の効果は、甲丙間に生ずる・・・×ただ単に代理権があるという事実だけでは、代理の効果は生じない

4 甲は乙に代理権を与えた旨を丙に表示していたときは、その契約の効果は、甲丙間に生じる・・・×3と同様

[5-38] 代理行為の瑕疵に関する事項

ア 代理人が相手方と通謀して虚偽の法律行為をした場合には、本人が善意であっても、その行為は無効である・・・本人は94条2項の第三者にあたらないので保護されない

イ 代理人が相手方に詐欺された場合には、代理人がその意志表示を取り消すことができるのであって、本人は取り消すことができない・・・×取消権を有するのは代理人ではなく、本人

ウ 本人が相手方を詐欺した場合には、代理人がそのことを知らなくても、相手方はその意思表示を取り消すことができる・・・

エ 代理人が相手方を詐欺した場合には、本人がそのことを知らなければ、相手方はその意思表示を取り消すことができない・・・×

オ 本人が善意無過失であれば、代理人が悪意であっても、本人は動産を善意取得することができる・・・×101条1項類推

|

2008年6月11日 (水)

択一問題手引集 刑法13 抽象的事実の錯誤

[63-49] 抽象的事実の錯誤に関する語句挿入問題。

本件において、被告人は、覚せい剤麻薬と誤認して所持したというのであるから、麻薬所持罪を犯す意思で覚せい剤所持罪に当たる事実を実現したことになるが、両罪は、その目的物が麻薬覚せい剤かの差異があり、後者につき前者に比し重い刑が定められているだけで、その余の犯罪構成要件要素は同一であるところ、目的物が麻薬覚せい剤との類似性にかんがみると、この場合、両罪の構成要件は軽い前者の限度において実質的に重なり合っているものと解するのが、相当である。

被告人には、所持にかかる薬物が覚せい剤であるという重い罪となるべき事実の認識がないから、覚せい剤所持罪故意を欠くものとして同罪の成立は認められないが、両罪の構成要件が実質的に重なり合う限度で軽い麻薬所持罪故意が成立し、同罪が成立するものと解するのが相当である。

[19-41] 抽象的事実の錯誤に関する事例・語句当てはめ問題。

事例Ⅰ:甲は、知人XがX所有の飼い犬を連れて散歩しているのを見て、Xを殺そうと思い、Xをねらって拳銃を発射したが、弾は犬に当たって犬が死亡した。

事例Ⅱ:甲は、知人XがX所有の飼い犬を連れて散歩しているのを見て、その犬を殺そうと思い、犬をねらって拳銃を発射したが、弾はXに当たってXが死亡した。

事例Ⅲ:甲は、知人Xを殺そうと思い、深夜、公園で、Y市所有の彫像をXと思い込んで拳銃を発射し、彫像を損壊した。

事例Ⅳ:甲は、彫像を損壊しようと思い、深夜、公園で、知人XをY市所有の彫像と思い込んで拳銃を発射し、Xを死亡させた。

学生A:まず、現実に結果が発生した客体についての犯罪の成否を検討しよう。事例Ⅱ事例Ⅰでは、甲はその行為時に人と物の二つの客体が現に存在することを見ているので、甲に現実の結果の発生についての未必の故意が認められる場合がある。その場合、現実に結果が発生した客体について、事例Ⅱでは甲に殺人罪が、事例Ⅰでは甲に器物損壊罪がそれぞれ成立し得る。

学生B:ⅠからⅣまでのいずれの事例でも、甲に現実の結果の発生についての過失が認められる場合がある。その場合、事例Ⅱ事例Ⅳでは甲に過失致死罪が成立し得るのに対し、事例Ⅰ事例Ⅲでは、過失が認められるとしても、それらの事例で成否が問題となる器物損壊罪には過失犯を処罰する規定がない。

学生A:次に、甲が結果の発生を意図した客体についての犯罪の成否を検討しよう。事例Ⅱ事例Ⅰでは、甲が結果の発生を意図した客体が甲の行為時に現に存在しているので、甲の行為が意図した結果を発生させる危険性のある行為であると認められる場合がある。その場合、甲が結果の発生を意図した客体について、事例Ⅰでは甲に 殺人未遂罪が成立し得るのに対し、事例Ⅱで成否が問題となる器物損壊罪には未遂犯を処罰する規定はない。

学生B:事例Ⅲでは、異なる構成要件間の事実の錯誤の場合、故意犯は成立しないと考えれば甲に、器物損壊罪は成立し得ないが、異なる構成要件間の事実の錯誤の場合、軽い罪の故意犯が成立すると考えれば、甲に器物損壊罪が成立し得る。

[6-42] 覚せい剤の粉末を麻薬と誤認して所持した場合の罪責を問う

犯人の認識はヘロインの所持であった場合は、麻薬及び向精神薬取締法を犯す意思で、覚せい剤取締法に当たる事実を実現したことになるが、

両罪は、その目的物が麻薬であるジアセチルモルヒネ覚せい剤かの差異があり、その余の犯罪構成要件要素は同一であるところ、麻薬と覚せい剤との類似性にかんがみると、この場合、両罪の構成要件は、実質的に全く重なり合っているものと解するのが相当である。

結局、覚せい剤を麻薬と誤認した錯覚は、生じた結果である覚せい剤所持の罪について故意を阻却するものではない。

また、犯人の認識がコカインの所持であった場合は、

結局、犯人には、所持に係る薬物が覚せい剤であるという重い罪となるべき事実の認識がないから、覚せい剤所持罪の故意を欠くものとして同罪の成立は認められないが、

両罪の構成要件が実質的に重なり合う限度で軽い麻薬所持罪の故意が成立し同罪が成立するものと解すべきである

|

2008年6月10日 (火)

択一問題手引集 刑法12 抽象的事実の錯誤

[7-45] 抽象的事実の錯誤に関して各説と事例の当てはめ問題。

事例Ⅰ:甲は乙の所有物を損壊しようとして拳銃を発砲したが命中せず、付近にいた丙に命中し、丙は死亡した。

事例Ⅱ:甲は自動車を運転中、誤って乙をはねてしまい、乙が死亡したと思った甲は、乙を山中に運び遺棄した。しかし、乙はまだ生存していたため、遺棄されたことにより、さらに生命の危険にさらされた。

事例Ⅲ:甲は駅の構内の待合室で、ベンチに放置されていたバッグを遺失物だと思い、持ち去ってしまった。しかし、実際には、売店に買い物に行った乙が一時的に置いていった物だった。

行為者が認識した事実と発生した事実につき、構成要件が形式的に重なっている場合に、その限度で故意犯が成立する(構成要件的符合説)事例Ⅰ(過失致死罪成立) 事例Ⅱ(犯罪不成立) 事例Ⅲ(犯罪不成立

実現事実が認識事実より重いとき、重い実現事実の犯罪が成立し、刑法第38条2項により、軽い罪の刑で処断すべきものと考える(抽象的符合説の合一的評価説)事例Ⅰ(殺人罪成立) 事例Ⅱ(保護責任者遺棄罪成立) 事例Ⅲ(窃盗罪成立) 

行為者が罪となるべき事実を認識した上で、何らかの法益を侵害した場合に、認識した事実について刑法第38条2項の限度で故意既遂犯が成立すると考える(抽象的符合説、牧野説)事例Ⅰ(器物損壊罪、過失致死罪成立) 事例Ⅱ(死体遺棄罪成立) 事例Ⅲ(占有物離脱横領罪成立

両者につき構成要件が重なっていなくとも、罪質が共通していればその限度で故意犯が成立すると考える(罪質符合説)事例Ⅰ(過失致死罪成立) 事例Ⅱ(犯罪不成立) 事例Ⅲ(占有離脱物横領罪成立

[14-56] 抽象的事実の錯誤に関して語句と事例当てはめ問題。

軽い罪を実現する意図で重い罪を実現した場合、構成要件の重なり合う限度で故意を認める見解がある。その中でも、重なり合いの判断基準を軽い罪と重い罪の保護法益が基本的に同一であるか否かに求める見解に立つと、

Ⅲ甲は、既に死亡していた乙を扶助を要する生者であると誤信して遺棄した。なお、甲は乙の保護責任者ではなかった

及び

Ⅱ甲は、乙所有の犬を殺すつもりでピストルを発射したが、弾丸は犬には当たらず、甲の予期に反して付近にいた乙に命中し、乙を死亡させた

という各事例で問題となる罪の保護法益には同一性が ない と考えられ、

Ⅱ甲は、乙所有の犬を殺すつもりでピストルを発射したが、弾丸は犬には当たらず、甲の予期に反して付近にいた乙に命中し、乙を死亡させた

では甲に 過失致死 が成立する。

一方、

Ⅳ甲は、駅の切符売り場にあったカメラを遺失物だと誤信し、自分のものにするつもりで持ち去ったが、そのカメラは付近にいた乙の占有するものであった

及び

Ⅰ甲は、乙が同意していると誤信して乙を殺害したが、乙は同意していなかった

という各事例で問題となる罪の保護法益には同一性が ある と考えられ、

Ⅰ甲は、乙が同意していると誤信して乙を殺害したが、乙は同意していなかった

では甲に 同意殺人罪 が成立する。

なお、構成要件の重なり合いの判断は条文の文言を重視した形式的基準によるべきであるとして、

Ⅳ甲は、駅の切符売り場にあったカメラを遺失物だと誤信し、自分のものにするつもりで持ち去ったが、そのカメラは付近にいた乙の占有するものであった

では構成要件に重なり合いが ない と考えて、

Ⅳ甲は、駅の切符売り場にあったカメラを遺失物だと誤信し、自分のものにするつもりで持ち去ったが、そのカメラは付近にいた乙の占有するものであった

における甲の罪責を検討すると、重なり合いの判断基準を上記のように保護法益の同一性に求めた場合の

Ⅲ甲は、既に死亡していた乙を扶助を要する生者であると誤信して遺棄した。なお、甲は乙の保護責任者ではなかった

における甲と同様、犯罪は成立しない。

|

2008年6月 6日 (金)

択一問題手引集 憲法10 人権の享有主体

[17-2] 天皇・皇族の人権に関する正誤問題。

A 最高裁判所の判例は、天皇にも民事裁判権が及ぶものの、天皇が日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴という地位にあることにかんがみ、天皇は実体法上民事責任を負わない旨判示している・・・×最判平成11.20

B 皇位の承継について、皇室典範第1条は、「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを承継する」と定めているが、この規定に関しては、「世襲制度自体が門地により人を差別するものであるから、憲法14条に反し違憲であるとの見解が成り立ち得る・・・×

C 皇位継承を男子に限る点で性別により人を差別するものであるから、憲法14条に反し違憲であるとの見解も成り立ち得る・・・

D 天皇及び皇族も憲法第3章の権利の享有主体となるとの立場から、必然的に、天皇及び皇族に選挙権を認めない公職選挙法の規定や皇族男子の婚姻に皇室会議の議を経ることを要求する皇室典範の規定は違憲であると考えることになる・・・×天皇・皇族は一般国民とは異なる一定の人権制約を受ける

[15-5] 各種法人の決議、処分が最高裁判決に照らして有効か無効

A 弁護士会が、特定の法律案について、「同法律案は、構成要件の明確性を欠き、国民の言論、表現の自由を侵害し、知る権利を始めとすつ国民の基本的人権を侵害するものである」との理由で、同法律案に反対する旨の総会決議を行った場合・・・有効東京高判H4.12.21

B 税理士会が、税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するために、政党など政治資金規正法上の政治団体に金員を寄付するために特別会費を徴収する旨の総会決議を行った場合・・・無効南九州税理士会事件

C 労働組合が、地方議会議員の選挙に当たり、いわゆる統一候補を決定し、組合を挙げて選挙運動をしている場合において、統一候補の選にもれた組合員が、組合の方針に反して立候補しようとするときに、これを断念するよう勧告又は説得してもなほ翻意しないため、同組合員を除名処分した場合・・・無効三井美唄労組事件

D 株式会社が、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになすと認められる特定政党に対する政治資金規正法上の寄付を行った場合・・・有効八幡製鉄政治献金事件

E 労働組合が、その実施する政治闘争に必要となる費用を臨時組合費として徴収する旨の組合決議を行った場合・・・無効国労広島地本事件:どの政党、候補者を支持するかは投票の自由と表裏をなしており、組合員が自主的に決定すべきことがら

[6-2] マクリーン事件判決文の語句選択

憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきものであり、

政治的活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみ、これを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。

しかしながら、外国人は、憲法上我が国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではなく、

ただ、『出入国管理及び難民認定法』上法務大臣がその裁量により更新を適当と認めるに足りる相当の理由があると判断する場合に限り在留期間の更新をうけることができる地位を与えたれているにすぎないものであり、

したがって、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、このような外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎないものと解するのが相当であって、

在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保障、すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない

在留中の外国人の行為が合憲合法な場合でも、法務大臣がその行為を当不当の面から日本国にとって好ましいものとはいえないと評価し、また、その行為から将来当該外国人が日本国の利益を害する行為を行うおそれがある者であると推認することは、その行為が上記のような意味において、憲法の保障を受けるものであるからといって何ら妨げられるものではない。

|

2008年6月 5日 (木)

択一問題手引集 憲法9 基本的人権

[59-4] 基本的人権に関する語句当てはめ。

基本的人権)なる用語は、元来、ポツダム宣言に由来するものであるとされている。同宣言にいう『基本的』なる形容詞は(人権)という語とどういう関係にあると考えられるか。

人権)のうちで、基本的なもの、という意味であるのか、それとも諸(権利)のうちで基本的な(権利)たる(人権)なのか、はたまた、単に『基本的』な(権利)ということに重点がある(それゆえ、『人』という語には格別の力点を置かない)のか。

基本的人権)と(人権)とをまったく同義に理解し、『基本的』という語には特別な意味を持たせないのが普通であり、要するに『すべての人間が当然享有すべきもの』が、(基本的人権)ないし単に(人権)であるとされることになる。

[7-2] 人権宣言に関する語句当てはめ。

1776年から1789年にかけて制定された、アメリカ諸州の憲法における人権宣言と、1789年のフランス人権宣言は、その基本思想を同じくするが、アメリカ人権宣言はイギリスにおける伝統的な諸自由を(自然法的)に基礎づけ確認したものであるのに対し、フランス人権宣言は、すべての文明国のために新しい(綱領的)な性格をもつ人権を抽象的に描いたものであること、

アメリカの人権宣言とは異なりフランス人権宣言では、(『法律は一般意思の表明である』という立法権優位の立場)によって、(『人権は立法権をも拘束する人間に固有の権利である』という自然法の立場)の意味が相対化され、人権は主として(行政権)の恣意を抑制する原理だと考えられたことなど重要な違いもある。

[18-5] 人権に関する語句当てはめ。

人権の観念や内容は歴史的に発展を遂げてきたが、第2次世界大戦後は、いわゆる人権条約によって、新たに多くの権利が国際的に保障されることとなった。

まず、国際連合憲章が「基本的人権と人間の(尊厳)及び価値」などに関する信念を再確認し、世界人権宣言で、古典的な自由権のほかに、「経済的、社会的及び(文化)的権利を実現する権利」(第22条)や「科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利(第27条)などを宣言した。

これらの諸権利を条約によって実効的に保護するために、国連総会では、1966年にいわゆる社会権規約(A規約)、自由権規約(B規約)及びB規約選択議定書の3つの条約からなる国際人権規約を採択した。

社会権規約及び自由権規約の第1条では、共に、すべての人民が(自決)の権利を有し、締約国はその権利を尊重すべきことを定めている。反面、この両規約は、保障する権利の性格の違いによって、(社会権)規約では、締約国の報告義務や努力義務を定めるのに対して、(自由権)規約は、締約国に即時実施義務を課している点が異なる、と解されている。

日本は、この両規約を1979年に批准したが、個人による(通報)制度などを定めたB規約選択議定書には加入していない。

また、国連総会で1979年に採択され、日本が必要な法改正を経て1985年に批准したいわゆる(女子差別撤廃)条約についても、その実効性を高めるために個人又は集団による(通報)制度を導入した同条約選択議定書が1999年に採択されたが、日本はこれに加入していない。

また、1965年に国連総会で採択されて1969年に発効したいわゆる人種差別撤廃条約については、日本は1995年にようやく批准し、1996年に国内的効力が発生した。

この条約では、「人種、(皮膚の色)又は種族的出身を理由とする人間の差別」を非難し、すべての者が法の前に平等であるという権利を保障している。

★人権の観念

  • 人権の固有性・・・人権が憲法や天皇から恩恵として与えられたものではなく、人間であることにより当然に有するとされる権利。憲法上の現れ・・・97条人権を「信託されたもの」 11条「現在及び将来の国民に与えられるもの」
  • 人権の不可侵性・・・人権が原則として公権力によって侵されないこと。憲法上の現れ・・・11条、97条「侵すことのできない永久の権利」。人権の不可侵性は絶対無制限ではなく、「公共の福祉」との関係で問題となる。
  • 人権の普遍性・・・人権は、人種、性、身分などの区別に関係なく、人間であることに基づいて当然に享有できる権利。憲法上の現れ・・・11条「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」

|

択一問題手引集 憲法8 第9条の解釈

[12-11] 憲法9条第1項の「国際紛争を解決する手段としては」の意義について、次の甲説、乙説との正誤問題。

甲説:国際紛争を解決する手段としての戦争とは、国際法上の用例に従うと、国家の政策の手段としての戦争、すなわち侵略戦争を意味し、自衛戦争を含まない。

乙説:国際紛争を解決する手段としての戦争とは、戦争がおよそ国際紛争の手段として行われるものであることからみて、侵略戦争のみならず自衛戦争も含む。

A 甲説に立ち、憲法9条第2項の「前項の目的を達するため」とは、侵略戦争放棄という目的を達するためと考えると、自衛戦争は合憲であるとの解釈が可能である・・・

B 甲説に立っても、憲法9条第2項の「前項の目的を達するため」とは、同条第1項の「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」という箇所を受けて、戦力不保持の動機を示すものであると考えると、自衛戦争は違憲であるとの解釈が可能である・・・

C 乙説に立っても、憲法9条第2項の「前項の目的を達するため」とは同条第1項の「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」という箇所を受けて、戦力不保持の動機を示すものであると考えると、自衛戦争は合憲であるとの解釈が可能である・・・×

D 甲説に立ち、憲法9条第2項の「交戦権」につき、交戦状態に入った場合に交戦国に国際法上認められる権利と考えても、自衛戦争は違憲であるとの解釈が可能である・・・

E 乙説に立っても、憲法9条第2項の「交戦権」につき、交戦状態に入った場合に交戦国に国際法上認められる権利であると考えると、自衛戦争は合憲であるとの解釈が可能である・・・×

[16-13] 第9条に関する正誤問題。

①国際法の通常の用語例から、第1項で放棄されている国際紛争を解決する手段としての戦争とは国家の政策としての戦争すなわち侵略戦争を意味し、自衛戦争は放棄されていないとするA説と、自衛戦争も含めてすべての戦争が放棄されているとするB説とに分かれている・・・

②A説によっても、憲法9条第2項は戦力を保持しないとしていることと交戦権を否認していることから、第2項により自衛のための戦争を含めてすべての戦争が禁止されるとする考え方もある・・・

③最高裁判所の判例で、自衛のための措置を採り得ることは国家固有の権能の行使として当然である旨を判示したものはない・・・×砂川事件判決

④最高裁判所は、自衛隊及び日米安保条約について、いずれも高度の政治性を有するものであって、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り、裁判所の司法審査には原則としてなじまない性質のものであると判示している・・・×

⑤最高裁判所は、憲法9条第2項の「戦力」とは、我が国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局我が国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれが我が国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと判示している・・・砂川事件判決

★第9条関係裁判

  • 恵庭事件:被告人の切断した自衛隊施設内の電信線は自衛隊の防衛用器物に当たらないので、自衛隊法121条の防衛用器物損壊罪違反に該当しない。よって被告人は無罪。自衛隊の合憲性については、憲法判断に立ち入るべきではないとして、憲法判断回避。(札幌地判昭和42年)
  • 長沼事件(札幌地判第一審昭和48年・・・自衛隊は9条にいう「戦力」に該当し違憲。札幌高判昭和51・・・統治行為論によって、一見きわめて明白に違憲、違法であると言えない場合には、司法審査の範囲外にあると判示。最高裁判昭和57年・・・訴えの利益の観点から原告の主張を斥けて、自衛隊の合憲性には言及せず。
  • 百里基地訴訟:自衛隊基地建設用地の国と私人との間の売買契約を、いわば間接適用説の立場から、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為には該当しない旨判示(最高裁判平成元年)
  • 砂川事件:日米安保条約について統治行為論の立場から、一見きわめて明白に違憲無効であると認められない限り、司法審査には原則なじまないと判示。「戦力」とは、「わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれが我が国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しない」(最高裁判昭和34年)。

|

«択一問題手引集 民法9 第三者の保護